ああ、びっくりした。イルカってばお祈りしますなんて言うんだもん。ちょっと、フラッシュバックしちゃった、へへ。
受付所を出て俺は自宅への道を行く。イルカの中の俺の記憶を諦めたわけではなかったが、強硬手段に出られない今、俺は極力イルカと本当に普通に、普通に接することに専念することにした。どんなイルカでもイルカはイルカだ。でも、俺の記憶のないイルカ、俺のことを呼び捨てにしないイルカ、それはどうしようもなく俺に絶望を与えた。本当はあまり会いたくない。でも任務がある、任務がある限り受付には行かなくてはならない。そして受付にはイルカがいる。悪循環のようにも見えるけど、これはこれで一つの形なのだ。やらないわけにはいかない。
俺は身も引き裂かれんばかりな気持ちを押し隠して毎日を送っていた。やっぱり眠れない夜は続いて遅刻は今や日常と化している。すまんね、部下たちよ。
そんな時にこの任務だ。護衛任務は極々単純なもののようだし、期間は少々長いがかえって今の俺にとっては好都合だった。火影はそんな俺の心情も悟ってくれたに違いない。俺ってば最近ちょっとやつれ気味だったからね。ははは、顔のほとんどが隠れてて本当に良かったよ!
...。はあ、早く荷物まとめよ。

 

そして波の国で、思ってもみなかった大物と対峙しなければならなくなり、俺はあっさりとチャクラ切れを起こしてしまった。ああ、この所寝不足だったしね、ふらふらしてたからね、もう、油断してたんだよっ。
ふがいない姿を部下たちに晒さなければならず、かなり歯がゆく、しかも再不斬が生きている可能性が高いときたものだから事は益々深刻で、気丈な振りをしてたけど、俺はかなり精神的に参ってた。
情けない、俺、ほんとイルカのこととなるともう、後先考えないって言うか、こんなことじゃあだめだって思ってるんだけど、どうしようもないんだよなあ、だってこれって本当に真剣な恋だからさあ。
タズナさんの家にご厄介になっ数日後の夜、俺は一人で少し散歩することにした。
タズナさんの家の近くには海岸があり、俺はそこでぼんやりと波打ち際を見ていた。
ああ、ここでも月明かりは木の葉と変わらず綺麗なんだなあ。木の葉の里は海に面していないから、月影が浮かぶ海って見ないもんなあ。
俺はてくてくと波打ち際を歩いた。ぽつぽつと砂浜に光るものがあったので手に取ってみると、それは貝殻だった。貝殻も木の葉ではあまり見ないものなんだよなあ。俺は任務で海沿いにもよく行ったことがあるけど、こうやって落ち着いて海岸を歩いたりするのは今回が初めてかもしれない。
俺は砂をはらってポケットに入れた。これ、イルカにあげたら喜ぶかなあ?
ふと、イルカの笑顔が浮かび上がって笑みを浮かべた。
ふふ、イルカのお土産ゲットだぜ!!
はっ、俺ってばまた乙女ちっくなことをぉおおっ!!
ま、まあ、別にイルカにあげるだけだし、アスマとかにあげたらきっと笑い転げられそうだけど、イルカなら快く受け取ってくれそうだ。俺の知るイルカならきっとそうする!うんっ!!
まったく、ほんっとうに何もかも全然解決策なんて見つかってないわけだけど、イルカが喜んでくれることが一つ見つかったと言うだけで俺は気分が晴れ晴れとした。
ほんと、げんきんって言うかお手軽って言うか、俺は馬鹿で、でも、そんな自分は嫌いじゃないなあ、なんて思ってしまうんだから始末に負えない。
今の状況も思わしくなくて、色々と厄介なことはあるんだけど、全然怖くなんかなかった。だって俺は絶対にイルカにお土産をあげるんだし、おかえりなさいって言ってもらうんだから、こんな所で部下ともども死ぬわけないじゃない?

 

それからはやっぱり再不斬の再度の襲撃だとか、ナルトの九尾の封印が外れそうになった?りとかして一筋縄じゃいかないことだらけだったけど、任務を終えて木の葉に帰ることになった。
忍びとしての存在価値だとか、複雑な思いは各々抱えての帰還となったが、それらはいずれ、自分たちを育む糧となるだろう。人として生きると言うこと、忍びとして道具に徹すること、この矛盾はどうにも平行線を辿ってしまうけれど、時代は移りゆく。ナルトがもし火影になる時が来るならば、そんな古くさい考え方も変わっていくのかもしれない。俺が辿ってきた暗い道を明るく照らしてくれたイルカのように。少しずつ、じんわりと包む温もりのように。ね、そうでしょ?イルカ。